熱中症から働く人守れ
関西の中堅・中小、新商品続々
関西の中堅・中小企業が熱中症対策市場に相次いで参入している。真夏は工場や屋外の建設現場で働く人には厳しい季節。作業着の裾に取り付けたファンが風を送り込む「エアコン服」や、気温や湿度データを計算して警報を出すシステムなど、健康を守るアイデア商品が登場している。深刻な人手不足を背景に労働環境を改善する意識の高まりも背景だ。
高所などで使われる安全ベルトを手掛けるサンコー(大阪市淀川区)は、作業着の裾に取り付けたファンが内部に風を送り込む「空調エアコン服」を6月に発売した。
同社は「高所作業を手掛ける企業ニーズに応えるために開発した」と話す。安全ベルトを体に装着し、背中からベルトを外に出せるように配慮した。ファンを外せば夏以外も着られる。専門店などでは2万円程度で販売されている。
プレス加工メーカー、チトセ工業(大阪府東大阪市)は工場など現場に設置したセンサーで温度などの情報を集め、あらかじめ決めておいた数値に達すると警報メールを送るシステムを扱う。パソコンで気温、湿度、放射熱などを組み合わせた暑さ指数(WBGT)を計算する仕組みだ。
関西の建設現場で採用されている。販売に加え、今年7月からはレンタルも開始。親機と子機1台のセットで販売価格は6万7450円。レンタルは返却時の整備費用を含めて1カ月1万6400円で済む。同社は建設現場だけでなく、介護施設や保育園などでも導入しやすくなると期待する。
導電性繊維開発のミツフジ(京都府精華町)は熱中症の予防にも活用できるシャツ型のウエアラブル端末を昨年12月に発売した。胸の部分に縫い込まれた導電性繊維を通じて着た人の心拍や動きを読み取る。例えば心拍の間隔が急激に変動した場合は熱中症の疑いがあると早期に判断できる。
「厳しい環境で働く従業員の体調の異変をいち早く察知・対処したいと考える企業から問い合わせが多い」(三寺歩社長)といい、今秋までに建設会社と東京都内の現場で試験導入し、実際に働いてもらう。2018年に量産を開始し、通信機器とのセット価格を1万5千円程度まで下げたい考えだ。
熱中症による労働災害は高水準で推移する。厚生労働省によると、熱中症による全国の死傷者数は16年に462人。建設業、製造業、運送業、警備業の順に死傷者数が多かった。このうち死亡者は12人。近畿2府4県では3人が命を落とした。
消防庁のまとめでは、熱中症で工場や建設現場など職場から運ばれた人は今年5月1日から7月9日まで近畿2府4県で177人だった。
大阪管区気象台が13日発表した近畿地方の1カ月予報(15日~8月14日)によると、期間の前半は気温がかなり高くなる可能性があるという。熱中症対策が欠かせない猛暑を迎える。
「冷却服」導入 東大阪の工場「溶接 集中できる」
最高気温が32度を超えた今月3日。大阪府東大阪市の鉄道部品メーカー、エクセラントの工場では大型の扇風機と局所タイプのエアコンがフル稼働していた。35度前後に達する2階の溶接工程は少し様子が異なる。
平田智也さん(29)は溶接機の炎から体を守る厚手の作業服を着用しているにもかかわらず、涼しげな様子で作業を進める。その秘密は作業服の内部にある。青色の細いチューブを首・肩からぶら下げていた。
この製品は東京都北区のジャスダック上場企業、重松製作所の個人用冷却器「クーレット」。10度前後に冷やされた空気がチューブの小さい穴から出る。エクセラントは今春約6万円で2セット購入。気温が上がり始めた4月ごろから使い始めた。
平田さんは「キンキンに冷やしたエアコンの前で涼んでいる感じ。汗をかく量も減り作業に集中できる」と喜ぶ。昨年はスポットタイプのエアコンと小型扇風機だったので「汗が止まらず体力的にきつかった」という。
熱中症対策など労働環境改善に対する経営者の意識も変わりつつある。エクセラントの秋本倫宏社長は「優秀な新卒社員を確保するには暑さ対策など作業環境を良くする必要がある」と強調する。東大阪市内の金型メーカー経営者は「快適な職場で成果を上げてもらいたい」と話している。
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